神戸地方裁判所 平成8年(わ)198号 判決 1996年9月18日
裁判所書記官
藤田敏彦
本籍
大韓民国(慶尚南道固城郡固城邑武良里)
住居
兵庫県西宮市北六甲台一丁目一八番五号
砕石販売業兼人夫供給業
葉山二郎こと李相植
一九四七年九月一一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中村融出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、兵庫県西宮市北六甲台一丁目一八番五号に居住し、同所において、「葉山建設」の名称で砕石販売業を営むとともに、神戸市北区八多町吉尾字北大畑八七九番地の一において、「六甲建設」の名称で人夫供給業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て
第一 平成三年分の実際総所得金額が一億四八一二万七七三四円(別紙1修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成するなどして、右所得の一部を秘匿した上同四年三月一六日、兵庫県西宮市江上町三番三五号所在の所轄西宮税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が一四五八万九〇〇〇円で、これに対する所得税額が三二四万四〇〇〇円(ただし、申告書は、計算の誤りにより三一九万四四〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額六九二九万九〇〇〇円と右申告税額との差額六六〇五万五〇〇〇円(別紙2税額計算書参照)を免れ
第二 平成四年分の実際総所得金額が一億四八〇万五七四七円(別紙3修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の方法により、右所得の一部を秘匿した上、同五年三月一二日、前記西宮税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が一三二九万四五〇〇円で、これに対する所得税額が二六七万二四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額四七四六万六〇〇〇円と右申告税額との差額四四七九万三六〇〇円(別紙4税額計算書参照)を免れ
第三 平成五年分の実際総所得金額が八〇六四万五一二九円(別紙5修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、売上の一部を除外する行為により、右所得の一部を秘匿しうた上、同六年三月一四日、前記西宮税務署において、同税務署長に対し、同五年分の総所得金額が一一三四万七九一六円で、これに対する所得税額が一九八万六〇〇円(ただし、申告書は計算の誤りにより一九四万三一〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額三五五五万円と右申告税額との差額三三五六万九四〇〇円(別紙6税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書二通
一 収税官吏の被告人に対する質問てん末書一九通
一 収税官吏作成の査察官調査書三三通
一 鄭住子の検察官に対する供述調書二通
一 収税官吏の鄭住子(二二通)、高木宏之(二通)、近藤明芳、伴絹江、三原明子、島本久男、鄭吉渕及び加藤明に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面
一 収税官吏作成の「修正申告書写しの提出について」と題する書面
判示第一の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(検甲二号のもの)
一 大蔵事務官作成の証明書(検甲三号のもの)
判示第二の事実について
一 収税官吏作成の脱税計算書(検甲四号のもの)
一 大蔵事務官作成の証明書(検甲五号のもの)
判示第三の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(検甲六号のもの)
一 大蔵事務官作成の証明書(検甲七号のもの)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪とも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお、情状により罰金刑について同条二項を適用することとし、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間報告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、砕石販売業兼人夫供給業を営む被告人が、実際の所得に関係なく過少な申告をする、いわゆる「つまみ申告」等の方法により、内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、その結果、自己の三年分の所得税合計一億四四〇〇万円余りを免れたという事案である。
右犯行は、そのほ脱税が多額である上、ほ脱率も平均で九五・四パーセントと極めて高率に達するなど、この種事犯の中でも犯情のよくないものというべきである。また、被告人は、右犯行に及んだ理由として、当時自己が事務所として借りていた土地について立ち退きを求められており、新しい用地の購入資金を確保する必要があったためというが、所詮それは自己の利益を図ったことにはほかならず、動機としてそれほど同情できるものではない。これらの事情に加え、多額の脱税事犯に対する非難の声が従来にも増して高まりつつある近時の一般国民感情にも照らすとき、被告人の刑責はかなり重いといわなければならない。
しかしながら、他方、被告人は、在日韓国人として不安定な立場にありながら日々努力を重ねて自己の事業を成功させてきたものであり、不正な行為により所得をあげたものではないこと、すでに修正申告をして本件に係る本税及び地方税等をすべて納付済みであること、犯行態様が比較的単純であり、悪質巧妙な手段とはいえないこと、このたびの阪神大震災で被告人自身相当の被害を受けており、いまだ営業も十分には回復しないこと、前科はあるものの、いずれも古いものであること、その他家族関係や反省の念等の被告人に有利な事情も存するので、これらも斟酌して被告人を主文の刑に処した上、今回は社会内での更生の機会を与えるため、懲役刑についてはその執行を猶予することとした。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 白井万久)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
税額計算書
<省略>
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
別紙4
税額計算書
<省略>
<省略>
別紙5
修正損益計算書
<省略>
別紙6
税額計算書
<省略>
<省略>